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◇「中止後」示さぬ新政権 「マニフェストに書いてある」。前原国交相は建設中止の理由をこう説明する。 そして、水需要予測の過大さを指摘し、自民党政権が出した答弁書ですら「八ッ場ダム計画のきっかけとなったカスリーン台風級の台風時には、八ッ場ダムが あってもなくても流量が同じ」としていることも挙げる。そのうえで「ダムに頼らない治水」への転換を訴えている。 完成後についても、ダムにた まる砂の浚渫(しゅんせつ)など維持管理費が発生するほか、河口への砂の供給が減るために海岸が浸食されて新たな護岸工事を 招くと指摘。「走りだしたら止まらない」公共事業の象徴で、そのあり方を変える「入り口」と位置づけ、「中止の方が高くついて も考えは変わらない」と理解 を求める。 関係6都県(東京、千葉、埼玉、茨城、栃木、群馬)にまたがる市民団体「八ッ場ダムをストップさせる会」もほぼ同じ主張だ。ダム基本計画の2度目の変更 で総事業費が約2110億円から約4600億円に倍増された04年、各都県を相手に建設負担金の支出差し止め訴訟を起こした。これまでに東京、前橋、水戸 の各地裁で敗訴して控訴中。12月には千葉地裁で政権交代後初となる判決を控える。 同会メンバーで、市民団体「水源開発問題全国連絡会」共同代表の嶋津暉之(てるゆき)さんは、最近50年間で最大とされる98年9月の洪水データを基に 治水効果を試算した。八ッ場ダムがあれば、利根川と支流の烏川が合流する八斗島(やったじま)(群馬県伊勢崎市)の水位は最大13センチ下がるが、最も高 くなっても堤防の下4メートルにしか届かず、過大に必要性を見積もっているとみる。地盤の弱さや国指定名勝・吾妻峡(あがつま きょう)の景観を損ねる点も 挙げ「百害あって一利なし」と主張する。 関係6都県はダム完成を強く望む。建設負担金を支出していることに加え、栃木を除く5都県はダム完成を前提とした「暫定水利権」を取得し、利根川から取 水している。ダムが中止されれば暫定水利権は失効するため「水源確保に影響する」と訴える。前原国交相は暫定水利権をそのまま「安定水利権」として認める と表明したが、具体的な手続きには触れていない。 ダムに代わる河川整備での治水対策も「流域自治体と調整しながら優先順位をつけて着実に整備する」と言うが、関係都県のいら立ちは収まりそうにない。 流域市区町村も反発している。カスリーン台風で被害を受けた利根川支流の江戸川流域13市区町で作る江戸川改修促進期成同盟会は7日、国交省河川局長に 意見書を提出。「なぜカスリーン台風の降雨パターンだけで、ダムがなくても安全と決めつけるのか」と批判した。 会長の根本崇・千葉県野田市長はカスリーン台風の被災者。「国交省が八ッ場ダムの必要性を主張する29洪水の降雨パターンをすべて公開し、治水効果を検 証し直してほしい」と話す。利根川と江戸川の整備計画は八ッ場ダム完成が前提だとして、中止撤回を求めた。 大澤正明・群馬県知事は「95年に下流の旧吾妻町がダム事業の協定書を締結した際、前原国交相は自社さ政権の一員だった」と批判した。 ダム計画浮上からの57年間、翻弄(ほんろう)された水没予定地の住民は前原国交相との意見交換会を拒否した。代替地整備は進まず、転出が相次ぎ、残っ た住民は5分の1。町はさびれ、ダムを観光資源とする再建策も中途半端なままだ。「下流を洪水から守るためにと受け入れたのに。政権が代わったからといっ て、約束がほごにされるのか」。萩原昭朗・八ッ場ダム推進吾妻住民協議会会長は憤る。 関係6都県はダム完成を強く望む。建設負担金を支出していることに加え、栃木を除く5都県はダム完成を前提とした「暫定 水利権」を取 得し、利根川 から取水している。ダムが中止されれば暫定水利権は失効するため「水源確保に影響する」と訴える。前原国交相は暫定水利権をそのまま「安定水利権」として 認めると表明したが、具体的な手続きには触れていない。 ダムに代わる河川整備での治水対策も「流域自治体と調整しながら優先順位をつけて着実に整備する」と言うが、関係都県の いら立ちは収 まりそうにない。 流域市区町村も反発している。カスリーン台風で被害を受けた利根川支流の江戸川流域13市区町で作る江戸川改修促進期成 同盟会は7 日、国交省河川局長に意見書を提出。「なぜカスリーン台風の降雨パターンだけで、ダムがなくても安全と決めつけるのか」と批判した。 会長の根本崇・千葉県野田市長はカスリーン台風の被災者。「国交省が八ッ場ダムの必要性を主張する29洪水の降雨パター ンをすべて公 開し、治水効果を検証し直してほしい」と話す。利根川と江戸川の整備計画は八ッ場ダム完成が前提だとして、中止撤回を求めた。 大澤正明・群馬県知事は「95年に下流の旧吾妻町がダム事業の協定書を締結した際、前原国交相は自社さ政権の一員だっ た」と批判し た。 ダム計画浮上からの57年間、翻弄(ほんろう)された水没予定地の住民は前原国交相との意見交換会を拒否した。代替地整 備は進まず、 転出が相次 ぎ、残った住民は5分の1。町はさびれ、ダムを観光資源とする再建策も中途半端なままだ。「下流を洪水から守るためにと受け入れたのに。政権が代わったか らといって、約束がほごにされるのか」。萩原昭朗・八ッ場ダム推進吾妻住民協議会会長は憤る。 2009年10月15日 |
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ダムが完成すれば水没する 川原湯温泉の街並み =群馬県長野原町で 2009年8月 、 伊澤拓也影撮 |
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うなる八ッ場ダム:地元は反発、見えぬ解決/2 コストいくら
http://mainichi.jp/select/science/news/20091015mog00m040023000c.html◇6都県 との調整、難航も ◇継続なら 八ッ場ダムの総事業費約4600億円のうち、執行されたのは7割の3210億円。残る約 1390億円で完成する予定で、 予算の執行率 を基にする08年度末の進ちょく率は国道、県道の付け替えが70%などとされる=表1。だが進ちょく率と事業の完成率はイコールではない。 自公政権下の6月に政府が国会に提出した答弁書によると、完成区間は、付け替え国道6%▽付 け替え県道3路線が 0~18%▽JR吾妻 線付け替え 75%--と、いずれも予算執行率を下回る。代替地造成(5地区)は09年度末で完了するが、分譲面積は7~20%。水没予定地からの移転は129世帯の うち16世帯にとどまる。 付け替え道路は4車線の予定だが、2車線で先行工事しているため追加工事が必要となる。反対 する原告らは他に、吾妻川の 水を八ッ場ダ ムにためるた め、東京電力の水力発電所への送水を減らすので、その補償に数百億円▽ダム湖周辺に22カ所ある地滑り危険地域の対策工事に何百億円もかかる--と指摘。 「事業費執行は7割でも完成はわずか。残りの事業費では事業完了は不可能で、ずるずる続ければ支出はかさむ一方」と指摘する。 国交省は「供用区間は少ないが、舗装を残すのみだったり、着手済みだったりもする。作業は予
定通りに進める」と反論し
た。しかし、ダムが完成すると今度は維持管理費が発生する。国交省の試算では、八ッ場ダムは年8億~9億円という。 事業中止に伴う還付金の扱いは、ダム建設手続きを規定した特定多目的ダム法(特ダム法)と施行令で「利水者の撤退以外の事情で中止した場合は、利水分の 負担金を全額返還する」と決められている。このため約1460億円は国交省から5都県に返される。これに、中止後も継続する生活再建関連事業の約 770億円を合計した約2230億円が「中止の場合に支出が確実視される額」(河川局)だ。 とはいえ、5都県の負担額の4割は、水道事業や工業用水に対する厚生労働省や経済産業省からの国庫補助金で賄っている。この分は5都県が両省へ返還する とみられるが、詳細はまだ決まっていない。 問題は治水分。特ダム法には治水面の返還規定はないが、国主導で始めた事業が国の都合で中止になる以上、6都県が負担し た約525億 円の返還を求めるのは必至だ。 さらに、生活再建関連事業には総事業費とは別の枠組みでの支出もある。付け替え道路の4車線 化などには、水源地域対策特 別措置法(水 特法)で約 997億円を計上。流域自治体からは、財団法人「利根川・荒川水源地域対策基金」を通じた約178億円の「地元補償」もある。水特法は事業中止を想定して おらず、基金にも返還の規定はない。 国と6都県の訴訟に発展する可能性もある。国交省は「過去に例がない形で関係都県と調整する ことになる。どうなるか分か らない」とい う。 ◇手続きも難題前原国交相は、ダム事業中止に伴う地元補償を規定した新法を来年の通常国会に提出するとして いる。 民主党は5月、「ダム事業の廃止等に伴う特定地域の振興に関 する特措法案(仮称)骨子案」を 公表。ダム事業を廃止した地 域を国が特定 地域に指定▽ 国や都道府県、住民らでつくる協議会で、公共施設整備や生活利便性の向上と産業振興事業などを盛り込んだ計画を作り、国が交付金を交付する--と提案して いる。補償新法の姿は明らかではないが、この骨子案の概念に沿って作られるとみられる。 八ッ場ダムの発注者である国交省関東地方整備局長は今月、1月に公告した本体工事の一般競争入札を取り消す公告 手続きを した。しか し、ダム事業の廃止は、特ダム法に基づく基本計画(法定計画)を廃止し、公告するまで効力を発揮しない。 法定計画の作成・変更・廃止の手続きはすべて同じ。特ダム法は、国交相はあらかじめ関係行政機関(厚労省や経産省など) の長と協議 し、関係都道府 県知事とダム使用権設定予定者から意見を聞かなければならない▽知事が意見を言うためには議会の議決が必要--と規定し、知事一人の判断では意見を言えな い仕組みだ。 しかも、6都県とも知事は建設推進派。打診なく中止の方針を表明されたことに態度を硬化させ、意見聴取 にすんなり応じる かは不透明。 事業としての法的な中止は決まらないという状態がしばらく続きそうだ。 2009年10月15日 どうなる八ッ場ダム:地元は反発、見えぬ解決/3止 変遷する計画 http://mainichi.jp/select/science/news/20091015mog00m040024000c.html ◇変更3回、事業費2倍に 国直轄の多目的ダム建設は、河川法に基づき策定される河川整備基本方針・河川整備計画で事業実施を採択することから始まる。八ッ場ダムは、利根川改修改 定計画に基づき旧建設省が52年、予定地調査に着手した。 事業が採択されると都道府県や市区町村、一部事務組合などが、利水者として事業に参加するかどう か利水計画を検討し、環境影響評価(アセスメン ト)なども行われる。ダムの規模など実施計画をまとめる調査を経て、特ダム法に基づき、建設に関する基本計画(法定計画)が定められると、建設作業に移 る。 ダム建設は(1)調査や地元説明(2)用地買収(3)生活再建工事(4)本体建設のために河川をバイパスさせる転流工工事(5)本体建設--の5段階に 大別され、八ッ場ダムは、(1)(2)(4)が終了している。 国交省によると、八ッ場ダムの目的は、利根川の洪水防御▽流水の正常な機能の維持▽水道用水の供給(栃木を除く5都県)▽工業用水の供給(群馬、 千葉)▽発電(群馬)--の五つ。利根川流域の治水は、堤防整備などの河川改修と、八ッ場ダムなど、利根川上流ダム群の貯水のセットで計画している。八ッ 場ダムはカスリーン台風級の降雨でも、八斗島の流量をカスリーン台風時の流量以下に抑制する役割があるという。 八ッ場ダムは法定計画が3回変更された。最初は01年。工期が10年延長され10年度完成に変更。2回目は04年で、目的が追加され、総事業費が 約4600億円と倍以上に増えた。3度目が08年で、再び工期が延長され15年度完成となった。だがダムえん堤の高さを下げるなど規模縮小によるコストダ ウンを図り、総事業費は据え置かれている。 2009年10月15日 |