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八ッ場ダム関連       

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どうなる八ッ場ダム:地元は反発、見えぬ解決/1 対立する主張
http://mainichi.jp/select/science/news/20091015mog00m040022000c.html
 「ムダづかい」と民主党がマニフェスト(政権公約)に掲げ、前原誠司・国土交通相が建設中止を表明した八ッ場(やんば)ダム (群馬県長野原町)。 関係6都県や地元住民が「苦渋の決断を政権交代の一言で覆すのか」と猛反発する一方で、公共工事を止めて「税金の使い道を変える」という前原国交相の姿勢 を評価する声もある。前原国交相と地元との溝は埋まらず、落としどころは見えないが、何が問われているのか、今後どうなるのかを探った。【石原聖、伊澤拓 也】 


◇「中止後」示さぬ新政権
「マニフェストに書いてある」。前原国交相は建設中止の理由をこう説明する。
 そして、水需要予測の過大さを指摘し、自民党政権が出した答弁書ですら「八ッ場ダム計画のきっかけとなったカスリーン台風級の台風時には、八ッ場ダムが あってもなくても流量が同じ」としていることも挙げる。そのうえで「ダムに頼らない治水」への転換を訴えている。
 完成後についても、ダムにた まる砂の浚渫(しゅんせつ)など維持管理費が発生するほか、河口への砂の供給が減るために海岸が浸食されて新たな護岸工事を 招くと指摘。「走りだしたら止まらない」公共事業の象徴で、そのあり方を変える「入り口」と位置づけ、「中止の方が高くついて も考えは変わらない」と理解 を求める。
 関係6都県(東京、千葉、埼玉、茨城、栃木、群馬)にまたがる市民団体「八ッ場ダムをストップさせる会」もほぼ同じ主張だ。ダム基本計画の2度目の変更 で総事業費が約2110億円から約4600億円に倍増された04年、各都県を相手に建設負担金の支出差し止め訴訟を起こした。これまでに東京、前橋、水戸 の各地裁で敗訴して控訴中。12月には千葉地裁で政権交代後初となる判決を控える。
 同会メンバーで、市民団体「水源開発問題全国連絡会」共同代表の嶋津暉之(てるゆき)さんは、最近50年間で最大とされる98年9月の洪水データを基に 治水効果を試算した。八ッ場ダムがあれば、利根川と支流の烏川が合流する八斗島(やったじま)(群馬県伊勢崎市)の水位は最大13センチ下がるが、最も高 くなっても堤防の下4メートルにしか届かず、過大に必要性を見積もっているとみる。地盤の弱さや国指定名勝・吾妻峡(あがつま きょう)の景観を損ねる点も 挙げ「百害あって一利なし」と主張する。
 関係6都県はダム完成を強く望む。建設負担金を支出していることに加え、栃木を除く5都県はダム完成を前提とした「暫定水利権」を取得し、利根川から取 水している。ダムが中止されれば暫定水利権は失効するため「水源確保に影響する」と訴える。前原国交相は暫定水利権をそのまま「安定水利権」として認める と表明したが、具体的な手続きには触れていない。

 ダムに代わる河川整備での治水対策も「流域自治体と調整しながら優先順位をつけて着実に整備する」と言うが、関係都県のいら立ちは収まりそうにない。
 流域市区町村も反発している。カスリーン台風で被害を受けた利根川支流の江戸川流域13市区町で作る江戸川改修促進期成同盟会は7日、国交省河川局長に 意見書を提出。「なぜカスリーン台風の降雨パターンだけで、ダムがなくても安全と決めつけるのか」と批判した。
 会長の根本崇・千葉県野田市長はカスリーン台風の被災者。「国交省が八ッ場ダムの必要性を主張する29洪水の降雨パターンをすべて公開し、治水効果を検 証し直してほしい」と話す。利根川と江戸川の整備計画は八ッ場ダム完成が前提だとして、中止撤回を求めた。
 大澤正明・群馬県知事は「95年に下流の旧吾妻町がダム事業の協定書を締結した際、前原国交相は自社さ政権の一員だった」と批判した。
 ダム計画浮上からの57年間、翻弄(ほんろう)された水没予定地の住民は前原国交相との意見交換会を拒否した。代替地整備は進まず、転出が相次ぎ、残っ た住民は5分の1。町はさびれ、ダムを観光資源とする再建策も中途半端なままだ。「下流を洪水から守るためにと受け入れたのに。政権が代わったからといっ て、約束がほごにされるのか」。萩原昭朗・八ッ場ダム推進吾妻住民協議会会長は憤る。
 関係6都県はダム完成を強く望む。建設負担金を支出していることに加え、栃木を除く5都県はダム完成を前提とした「暫定 水利権」を取 得し、利根川 から取水している。ダムが中止されれば暫定水利権は失効するため「水源確保に影響する」と訴える。前原国交相は暫定水利権をそのまま「安定水利権」として 認めると表明したが、具体的な手続きには触れていない。
 ダムに代わる河川整備での治水対策も「流域自治体と調整しながら優先順位をつけて着実に整備する」と言うが、関係都県の いら立ちは収 まりそうにない。
 流域市区町村も反発している。カスリーン台風で被害を受けた利根川支流の江戸川流域13市区町で作る江戸川改修促進期成 同盟会は7 日、国交省河川局長に意見書を提出。「なぜカスリーン台風の降雨パターンだけで、ダムがなくても安全と決めつけるのか」と批判した。
 会長の根本崇・千葉県野田市長はカスリーン台風の被災者。「国交省が八ッ場ダムの必要性を主張する29洪水の降雨パター ンをすべて公 開し、治水効果を検証し直してほしい」と話す。利根川と江戸川の整備計画は八ッ場ダム完成が前提だとして、中止撤回を求めた。
 大澤正明・群馬県知事は「95年に下流の旧吾妻町がダム事業の協定書を締結した際、前原国交相は自社さ政権の一員だっ た」と批判し た。
  ダム計画浮上からの57年間、翻弄(ほんろう)された水没予定地の住民は前原国交相との意見交換会を拒否した。代替地整 備は進まず、 転出が相次 ぎ、残った住民は5分の1。町はさびれ、ダムを観光資源とする再建策も中途半端なままだ。「下流を洪水から守るためにと受け入れたのに。政権が代わったか らといって、約束がほごにされるのか」。萩原昭朗・八ッ場ダム推進吾妻住民協議会会長は憤る。

2009年10月15日

ダムが完成すれば水没する川原湯温泉の街並み=群馬県長野原町で2009年8月、伊澤拓也撮影
ダムが完成すれば水没する
川原湯温泉の街並み
=群馬県長野原町で 2009年8月
、 伊澤拓也影撮















ど うなる八ッ場ダム:地元は反発、見えぬ解決/2 コストいくら
http://mainichi.jp/select/science/news/20091015mog00m040023000c.html◇6都県 との調整、難航も
 ◇継続なら

 八ッ場ダムの総事業費約4600億円のうち、執行されたのは7割の3210億円。残る約 1390億円で完成する予定で、 予算の執行率 を基にする08年度末の進ちょく率は国道、県道の付け替えが70%などとされる=表1。だが進ちょく率と事業の完成率はイコールではない。

 自公政権下の6月に政府が国会に提出した答弁書によると、完成区間は、付け替え国道6%▽付 け替え県道3路線が 0~18%▽JR吾妻 線付け替え 75%--と、いずれも予算執行率を下回る。代替地造成(5地区)は09年度末で完了するが、分譲面積は7~20%。水没予定地からの移転は129世帯の うち16世帯にとどまる。

 付け替え道路は4車線の予定だが、2車線で先行工事しているため追加工事が必要となる。反対 する原告らは他に、吾妻川の 水を八ッ場ダ ムにためるた め、東京電力の水力発電所への送水を減らすので、その補償に数百億円▽ダム湖周辺に22カ所ある地滑り危険地域の対策工事に何百億円もかかる--と指摘。 「事業費執行は7割でも完成はわずか。残りの事業費では事業完了は不可能で、ずるずる続ければ支出はかさむ一方」と指摘する。

 国交省は「供用区間は少ないが、舗装を残すのみだったり、着手済みだったりもする。作業は予 定通りに進める」と反論し た。しかし、ダムが完成すると今度は維持管理費が発生する。国交省の試算では、八ッ場ダムは年8億~9億円という。
◇中止なら
 「特定多目的ダム」の八ッ場ダムは、国交省と流域1都5県が総事業費を共同負担して建設して いる。総事業費の45・4%を水道水などの利水面、残る54・6%を洪水調節などの治水面として算出した。利水面は利水者が全額負担、治水面は河川法に基 づく直轄事業負担金(国7対地方3)としての支出だ。

 支出済み約3210億円の内訳は、利水面が約1460億円、治水面が約1750億円=表2。利水面は栃木を除く 5都県が 支出しており、治水面では3割の約525億円を6都県で負担している。
 事業中止に伴う還付金の扱いは、ダム建設手続きを規定した特定多目的ダム法(特ダム法)と施行令で「利水者の撤退以外の事情で中止した場合は、利水分の 負担金を全額返還する」と決められている。このため約1460億円は国交省から5都県に返される。これに、中止後も継続する生活再建関連事業の約 770億円を合計した約2230億円が「中止の場合に支出が確実視される額」(河川局)だ。
 とはいえ、5都県の負担額の4割は、水道事業や工業用水に対する厚生労働省や経済産業省からの国庫補助金で賄っている。この分は5都県が両省へ返還する とみられるが、詳細はまだ決まっていない。
  問題は治水分。特ダム法には治水面の返還規定はないが、国主導で始めた事業が国の都合で中止になる以上、6都県が負担し た約525億 円の返還を求めるのは必至だ。

  さらに、生活再建関連事業には総事業費とは別の枠組みでの支出もある。付け替え道路の4車線 化などには、水源地域対策特 別措置法(水 特法)で約 997億円を計上。流域自治体からは、財団法人「利根川・荒川水源地域対策基金」を通じた約178億円の「地元補償」もある。水特法は事業中止を想定して おらず、基金にも返還の規定はない。

 国と6都県の訴訟に発展する可能性もある。国交省は「過去に例がない形で関係都県と調整する ことになる。どうなるか分か らない」とい う。

 ◇手続きも難題
 前原国交相は、ダム事業中止に伴う地元補償を規定した新法を来年の通常国会に提出するとして いる。
  民主党は5月、「ダム事業の廃止等に伴う特定地域の振興に関 する特措法案(仮称)骨子案」を 公表。ダム事業を廃止した地 域を国が特定 地域に指定▽ 国や都道府県、住民らでつくる協議会で、公共施設整備や生活利便性の向上と産業振興事業などを盛り込んだ計画を作り、国が交付金を交付する--と提案して いる。補償新法の姿は明らかではないが、この骨子案の概念に沿って作られるとみられる。  八ッ場ダムの発注者である国交省関東地方整備局長は今月、1月に公告した本体工事の一般競争入札を取り消す公告 手続きを した。しか し、ダム事業の廃止は、特ダム法に基づく基本計画(法定計画)を廃止し、公告するまで効力を発揮しない。
 法定計画の作成・変更・廃止の手続きはすべて同じ。特ダム法は、国交相はあらかじめ関係行政機関(厚労省や経産省など) の長と協議 し、関係都道府 県知事とダム使用権設定予定者から意見を聞かなければならない▽知事が意見を言うためには議会の議決が必要--と規定し、知事一人の判断では意見を言えな い仕組みだ。

  しかも、6都県とも知事は建設推進派。打診なく中止の方針を表明されたことに態度を硬化させ、意見聴取 にすんなり応じる かは不透明。 事業としての法的な中止は決まらないという状態がしばらく続きそうだ。
 2009年10月15日

どうなる八ッ場ダム:地元は反発、見えぬ解決/3止 変遷する計画

http://mainichi.jp/select/science/news/20091015mog00m040024000c.html

 ◇変更3回、事業費2倍に
 国直轄の多目的ダム建設は、河川法に基づき策定される河川整備基本方針・河川整備計画で事業実施を採択することから始まる。八ッ場ダムは、利根川改修改 定計画に基づき旧建設省が52年、予定地調査に着手した。
 事業が採択されると都道府県や市区町村、一部事務組合などが、利水者として事業に参加するかどう か利水計画を検討し、環境影響評価(アセスメン ト)なども行われる。ダムの規模など実施計画をまとめる調査を経て、特ダム法に基づき、建設に関する基本計画(法定計画)が定められると、建設作業に移 る。
 ダム建設は(1)調査や地元説明(2)用地買収(3)生活再建工事(4)本体建設のために河川をバイパスさせる転流工工事(5)本体建設--の5段階に 大別され、八ッ場ダムは、(1)(2)(4)が終了している。
 国交省によると、八ッ場ダムの目的は、利根川の洪水防御▽流水の正常な機能の維持▽水道用水の供給(栃木を除く5都県)▽工業用水の供給(群馬、 千葉)▽発電(群馬)--の五つ。利根川流域の治水は、堤防整備などの河川改修と、八ッ場ダムなど、利根川上流ダム群の貯水のセットで計画している。八ッ 場ダムはカスリーン台風級の降雨でも、八斗島の流量をカスリーン台風時の流量以下に抑制する役割があるという。
 八ッ場ダムは法定計画が3回変更された。最初は01年。工期が10年延長され10年度完成に変更。2回目は04年で、目的が追加され、総事業費が 約4600億円と倍以上に増えた。3度目が08年で、再び工期が延長され15年度完成となった。だがダムえん堤の高さを下げるなど規模縮小によるコストダ ウンを図り、総事業費は据え置かれている。
2009年10月15日


【検証・八ツ場ダム】(1)「説明なし」「政治問題化」に戸惑う地元
2009.10.28 20:48
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091028/plc0910282057019-n1.htm

1都5県知事と国土交通大臣の話し合い後で、取材陣の質問に答える前原国土交通大臣=10月27日午後、群馬県前橋市1都5県知事と国土交通大臣の話し合 い後で、取材陣の質問に答える前原国土交通大臣=10月27日午後、群馬県前橋市

 八ツ場(やんば)ダム建設予定現場の吾妻川上流。国の名勝「吾妻峡」へと連なる川原湯温泉街(群馬県長野原町)は、紅葉の見ごろを迎え、1年で最もにぎ わいを見せている。
 ただ今年は、ダム予定地が“新名所”として、さらに客を呼ぶ皮肉な結果となっている。
 「『ニュースでやってた橋はどこですか』と聞いてくる人が増えた。案内所のようになってますよ」と、温泉街に唯一残る土産物屋を切り盛りする樋田ふさ子 さん(80)。しわくちゃな笑顔の裏で、気持ちは不安でいっぱいだ。「中止って言われても…。こんな状況は想像だにしてなかった」
 発火点は、大臣就任直後に前原誠司国交相が発した一言だった。9月17日、午前0時過ぎ。官邸での就任会見を終えた前原氏は国交省に戻りこう語った。 「八ツ場ダム工事は中止する。マニフェストを実行する」
 その瞬間から、八ツ場ダムは「政権交代」と「マニフェスト実現」の象徴として、全国的な関心を集めていく。
 地元の思いは複雑だ。なぜなら、構想が発表された昭和27(1952)年以来、地元はダム問題を、政治や思想性、イデオロギーの問題から切り離そう、切 り離そうとしてきた歴史があるからだ。
     ×
 「いきなり土足で踏み込まれた気持ち」。電光石火の前原国交相の動きに、水没予定地の川原湯温泉旅館組合の豊田明美組合長(44)は憮然(ぶぜん)とす る。「まったく地元への説明がない。中止の理由や論拠を説明しないのは、説明できないからではないかとも思ってしまう」とも。
 かつて地元住民らが組織した「反対期成同盟」の中心メンバーだった竹田博栄さん(79)は、突然の「建設中止宣言」に、半世紀前の光景を重ねる。当時も 地元への説明の不十分さが、住民らの総反発を招く一因となった。
 「だが…」と竹田さん。「八ツ場の反対闘争は、地元の生活を守るための反対運動で、政治的、思想的な運動ではなかった」。反対運動がピークを迎えた昭和 40年代は、成田空港整備に反対する農民と学生の反対運動の絶頂期と重なる。空港反対派の一部は、反国家権力闘争の構図を八ツ場にも見いだしていた。
 「昭和40年代、温泉街入り口に突然プレハブ小屋ができた。成田闘争の連中が建てたものだった。成田からきたヘルメット姿の集団が押しかけてきたこと も」と竹田さん。だが地元は共闘を拒んだ。「成田のような流血の運動は拒否するというのが地域全員の認識だった」。流血の惨事なく、地域の未来を切り開い てきたことは地元の誇りだ。
 生活を守ることに特化した反対運動。昭和50年代半ばに国や県が提示した「生活再建案」を転機に、建設を受け入れていった。苦渋の決断だった。
     ×
 だが、ダムは完成(平成27年)目前にして、「政権交代」「マニフェスト実現」といった、地元住民が一線を画してきたはずの政治色を強く帯びていく。
 27日、ダム下流域の1都5県の知事らと面会した前原国交相は、「政権交代を機にダム事業のあり方を見直す」改めて「中止」を明言した。そんな前原国交 相の姿勢に、中止撤回を求める知事側は「非民主的。現代の行政は情報公開と説明責任がポイントなのに…」(上田清司埼玉県知事)と反発を深めるばかりだ。
 野党となった自民党は2日に谷垣禎一総裁が現地訪問。「過去の経緯にもかかわらず、地元の声をまったく聞かず…」と開会中の臨時国会で追及する考えだ。
 28日現在、肝心の住民たちと前原国交相の話し合いは実現していない。民主党のマニフェストの冒頭。「生活のための政治」の言葉が躍ることが、住民に とっては皮肉だ。
 政治問題化したことで、にぎわいを見せる川原湯温泉。「さみしいよね」。樋田さんがつぶやく。
     ■
 マニフェストに沿って建設中止を表明した国交相。撤回を求める地元住民ら。八ツ場ダム問題がほぐれない。互いの考えや気持ちがどうすれ違っているのか -。現場の声を拾い、検証していくと、八ツ場に限らない政権交代の余波と課題が見えてくる。

【検証・八ツ場ダム】(2)「治水効果あるの?」国交、自治体…分かれる見解
2009.10.29 22:39
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091030/plc0910300132000-n1.htm


 「ダムの必要性を再検証する」。八ツ場(やんば)ダムの建設中止を掲げる前原誠司国交相は27日、中止撤回を求める流域6都県の知事との会談の場でそう 明言した。知事側からは「科学的な理由を挙げてほしい」との要望が出た。
 八ツ場ダムには治水、利水といった建設目的がある。だが、国交相と流域自治体では、そのデータ解釈をめぐる立場がまったく異なっている。どちらが科学的 なのか-。
×
 八ツ場ダムが計画される利根川水系江戸川が流れる東京 都江戸川区。区役所(同区中央)玄関にある9段の階段を見つめ、多田正見区長はため息をついた。「昭和37年の庁舎完成から1 段、また1段と、やむなく増やしてきたんです」
 戦後長らく続いた天然ガス採掘の影響による地盤沈下 で、区役所の基礎が地面から浮き出てきた名残が、9段の階段なのだ。
 面積50平方キロ、人口67万人の江戸川区。いわゆる 「海抜0メートル地帯」は7割までに拡大した。
 「笑い話じゃないですがね。灯篭(とうろう)流しをしても、海に流れていかないんですよ」と多田区長。地盤沈下を重ねる度に川底を削ってきたが、もう限 界に達している。
 もし堤防が決壊したら…。江戸川区に限らず、利根川水域の自治体にとっては深刻だ。
 10月7日。河川沿いの1都3県の市区町長らが、「治水面からの徹底した情報公開を行い、整備の必要性の再検証を求める」とする要望書を国交省に提出し た。みな、利根川、江戸川の洪水の危険性に頭を悩ませている自治体だ。
 代表を務める千葉県野田市の根本崇市長は「自分自身がカスリーン台風の被災者。洪水をどう止めるのかを示さずにダム工事中止ありきでは困る」と訴えた。

【検証・八ツ場ダム】(4)巨額建設費に群がる人々
2009.11.1 00:21
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091101/plc0911010031000-n1.htm

完成されれば、薄い青の部分がダム湖に沈む。両側の代替地の造成や橋、JRの付け替え作業も進む(国土交通省提供)

 八ツ場(やんば)ダムのPR センター「やんば館」。建設反対闘争の歴史や住民の苦渋の決断の末に着工に至った経緯などを、多くの人に知ってもらおうと平成11年4月に建設された。総 工費約2億円。1階に展示フロア、2階に会議室を備えている。
 施設にはこんな文言が掲げら れている。「ダムが完成すると、今立っているここは水没します」
 建設から10年で訪れた客は約27万人。1日平均73 人。地元には「無駄な箱物の象徴。大金を投じたのになぜ水没させるのか」という声がある。
 八ツ場ダムの総事業費は当初、2110億円だった。それが、16年に 4600億円へと増額修正された。立ち退き補償費が当初予定の3・5倍。鉄道や道路の付け替え工事費も倍増。すでに3210億円が投入済み…。
 多くの無駄やそれに群がる人がいたのも事実だ。
  ×  ×  ×
 国や県の生活補償案が、地元に示され始めた昭和55年以降、ダム予定地では異様な光景が広がり始めた。
 水没予定地の山林が次々と伐採され、プレハブ小屋が建ち始めたのだ。土地を取得したのはほとんどが群馬県以外の人。東京都内の不動産会社などの名前が あった。買収された総面積は約10万平方メートル、甲子園球場の2・5倍になるという。
 3・3平方メートル(1坪)で1500円ほどの山林地を3倍ほどの値段で買い取り、4万5千円ほどで転売する。小屋を建てることで「宅地」として高い補 償金で買い取ってもらう算段だったとみられている。
 総事業費4600億円に対し、八ツ場ダムの本体工事関連費は620億円しかない。立正大経済学部の藤岡明房教授(公共経済学)は、「総事業費に占める本 体工事費の割合は、異例なほど低い」と指摘する。
 藤岡教授の指摘では、公務員も、ダム事業費を膨らませてきた一因だ。「簡単に総事業費が増額されたことに象徴されるように、役所には費用や時間の感覚が 希薄。計画ができて半世紀。ここまで長期化してきたことが事業費をふくらませてきた」と藤岡教授。地元からも「現場で働く職員の人件費が、一番の無駄遣い だ」という声すら上がっている。
  ×  ×  ×
 住民との交渉など地元対応を行っている「八ツ場ダム工事事務所」には、約90人の職員のほか非常勤の短期契約職員、やんば館にも常時2人が勤務する。み な税金から給料が出ている。昨年までは、事務所には公用の所長車があった。
 八ツ場ダムをストップさせる市民連絡会の嶋津暉之代表は「役人がいい思いをするために、八ツ場ダムが存在する意味がある。国交省職員の天下り先企業への ダム関連事業の委託もある」と指摘する。
 そんな点では、ダム建設中止を訴える住民も、中止撤回を訴える住民も認識は同じだ。
 10月19日に6都県知事が群馬県長野原町を訪れて行われた住民との意見交換会。地元、川原湯温泉旅館組合の豊田明美組合長は中止撤回を求める一方で、 こう求めた。「無駄遣いをなくすことは大賛成。削れるところは削って、ダム建設を速やかに進めてほしい」
 マニフェストに沿って、全国143ダムに行われる建設見直し作業。公共事業に群がる人たちにまでメスが入る予兆はない。

【検証・八ツ場ダム】(5)膠着…歩み寄りは可能か
2009.11.2 21:56
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091102/plc0911022157011-n1.htm

 「前原誠司国交相は反対派にだまされている。賢明な方なので、そのうちお分かりになるだろう」
 痛烈な言葉で国交相を批判したのは埼玉県の上田清司知事。平成15年に知事に当選するまでは民主党衆院議員。はた目から見れば、身内のケンカだ。
 八ツ場(やんば)ダム建設にかかわる基本協定書などが国と地元・群馬県吾妻町(東吾妻町)と交わされたのは平成7年。当時の政権与党は自民・社会・さき がけ連立政権だった。前原国交相ら民主党には、さきがけ出身の議員が少なくない。
 上田知事は会見で「前原さんも政調幹部でおられたし…。そういう立場の中で正式にお決めになったんですから」と皮肉る。
 ダム下流域の民主党議員らも立場は複雑。埼玉県議会では民主党系会派に所属する18人のうち9人が、ダム建設推進の議員連盟に参加していたため、議会に 提出された「建設推進の意見書」をめぐり混乱。民主党籍を持つ7人が急遽(きゆうきよ)、議員連盟を脱退した。
 茨城県議会では民主党会派が、「意見書を出す段階ではない」と、ダム建設の「推進」「中止」を求める両方の意見書に反対した。
 マニフェストに関し民主党全体が一枚岩になっているともいえないようだ。

■姿勢に濃淡
 そもそもマニフェスト自体が、過去一貫して八ツ場ダム建設中止を名指しで盛り込んできたわけではない。
 17年の衆院選マニフェストでは中止とあったのが、19年の参院選マニフェストでは消えている。それが21年の衆院選マニフェストで名指し復活してい る。
 「個別事業には触れない方針だった」といった理由はあるようだが、党の姿勢に濃淡ができたことには間違いない。
 さらに民主党は、今年8月の総選挙で地元に公認候補者を立てていない。自民党の牙城といわれる群馬県。「もし地元で民主候補を擁立、落選となったら、ダ ム建設中止にNOを突きつけられたことになりかねないことを危惧(きぐ)した」。そんな見方がある。
 地元・長野原町の川原湯温泉旅館組合長の豊田明美さんは「ダム建設を問題視する人たちは、地元外の人たちばかり。政治家はここに骨を埋め、一生をささげ るぐらいの覚悟でやってもらわないと」と憤っている。

■マニフェスト
 「国民との契約。必ず実行する」(鳩山由紀夫首相)、「しっかり検証し止めるものは止める」(前原国交相)。金科玉条のごとく掲げられているマニフェス ト。確かに国民は政権交代を選択した。
 だが、マニフェストに関して民主党内が一枚岩なのでもなく、過去から貫かれたものでもない。
 そこに、膠着(こうちやく)した事態のほぐれの可能性をみる人もいる。
 長野原町の高山欣也町長がこんな言葉を漏らしている。「何らかの方法を考えて、歩み寄ってほしい。私たちは話し合いを拒んでいるわけではない」=おわり
(連載は森本充、小川寛太、赤堀正卓が担当しました)
      ◇
 ご意見をお寄せください。社会部FAX03・3275・8750、Eメール news@sankei-net.co.jp


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